
みなさんこんにちは、広島大学医学部医学科5年の井村駿希です。
今回は、岡山県新見市哲西町にある、哲西町診療所で1週間実習をさせていただきました。
はじめに言ってしまいますが、とにかく良い実習でした!!!
学んだこと、感じたことはたくさんありますが、この記事ではその一部を紹介できたらと思います。
町の中心に診療所
まずは哲西町の紹介から。
哲西町は、岡山県北西部の広島県との県境に位置し、人口は2,096人、高齢化率は49.3%(令和7年3月末)の町です。
その町の中心にあるのが、複合施設「きらめき広場 哲西」。
http://www.npo-kirameki.jp/ より引用
この円形施設の中に、診療所が配置されています。
実はこの施設、平成13年に完成した比較的新しくて綺麗な建物。
高齢化が進んでいる町に、こんなに大きな施設を立てても、結局使われなくなってしまわないのか?
そんな疑問が湧いてきます。
しかし、そこには秘密がありました。
きらめき広場 誕生秘話
当時哲西町町長だった、NPOきらめき広場の深井正さんからお話を伺いました。
平成9年、旧町役場庁舎が老朽化し、建て替えが必要となっていた哲西町。
そこで、深井さんを中心に、「今後、哲西町に必要と思う施設は何か?」と町民全員にアンケートを行いました。
すると、6割を超える住民がこう答えたそうです。
地域の健康を守ってくれる診療所がほしい。
そして住民を交えた設計会議を60回以上も重ね、住民の思いを十分に反映した複合施設が完成しました。
住民自らが設計したものだから、愛着がある
これが住民から愛され使われ続ける秘密なのだと感じました。
そして、当時のことを熱く語ってくださった深井さんの思いに感動しました。

各施設にこうした細かい工夫が散りばめられており、それが施設の高い利用率にも繋がっているようです。
哲西町を産業で盛り上げる
きらめき広場から車で10分ほどの山の中にある、「松陽産業」。
哲西町診療所の佐藤勝先生がこの企業の産業医を務めているため、その仕事に同行しました。
松陽産業さんが作っているのがこちら。

実はこれ、すべて金属板に開いた孔が集まってできたもの。
この企業のパンチングメタルという技術は、日本各地の有名施設で使われているそうです。
小さな事業所ながら、数多くの企業努力をされて、哲西町を盛り上げておられました。
血圧測定実習
そういえばここまで、「診療所実習」に行ったはずなのに全く診療所での実習のことに触れていませんでしたね。
(実はそれがここでの実習のポイントのような気もしますが...)
さて、ここでの実習では、初日の朝から毎日患者さんの血圧測定を行います。
(...意外と大学の実習で血圧測ったことないんだよなぁ)
(...何を話そうか)
そんなことを思いながら患者さんの目の前へ。
「おはようございます。広島大学の学生の井村です。血圧を測らせてください。」
慣れた様子で手を差し出してくださる患者さん。
そして、流れ始めてしまった気まずい空気。
何か話さなきゃ、、、と思っていると血圧計から終了の合図。
患者さんとのコミュニケーションが大事だと頭ではわかっているのに、実際に目の前にすると何もできない無力感を感じ、初日の血圧測定が終わりました。
しかしこの失敗はとても良い失敗でした。
いきなりやって失敗したことで、じゃあ明日はどうやってうまくコミュニケーションしようか、と自ら考えるようになりました。
次の日の血圧測定では、どこか自信がありました。
「おはようございます。学生の井村です。血圧を測らせてください。
先週末新見市で、ももまつり があったそうですが、〜〜〜」
実はこの血圧測定、「医学科5年生だから」ではなく、学年・学部問わず全員にやってもらうそうです。
患者さんを相手にする時の基本であり一番大事なものを身につけることができました。
診察実習
実習4日目。今日は佐藤先生の指導の元、診察を一人でやることに。
もちろん必要があればいつでも相談できる環境は整っていますが、あくまで診察をするのは私。
最初の患者さんはどんな人が来るのかどきどきしていると、看護師さんから
「井村くんのご指名が入りましたよ」
...!??
実は2日前のこと
デイサービスの見学に行かせていただいた時、ある90代の男性の方とお話ししました。
その時の体調だったり、生い立ちだったりについて10分ほど話したあと、ふいにその方から、
「明後日診療所に行く予定じゃけ、その時はあんたを指名させてもらうわ」
そう言われていたんです。
学生なのに一人の医師のように扱ってもらった感動を覚えつつも、本当に指名なんてしてくださるのか...?
これまでも「いつしかあんたに診てもらうかもね」などと冗談交じりに言われたことはありましたが、それが実現することはありませんでした。
が、本当に指名してくださるとは...

たまたまお薬の変更も希望され、本当に一人の医師のように扱っていただき、とにかく嬉しかったです。
初めて完全に一人でやる診察で、戸惑いはありつつも、責任感を強く感じて診察することができました。
この経験は間違いなくこれからの人生の中で何度も思い出し立ち返ることになるであろう、大きな糧になると思います。
そして、事前学習や実習中に何度も聞いていた、「町民が医者を育てている」という言葉の意味を身を持って実感することができました
おまけ① ベトコンラーメン
ともに実習をしていた研修医・学生の2人と、ラーメンを食べに!
このあたりでは有名な「ベトコンラーメン」というラーメンをいただきました。

スタミナがしっかりつきそうな食材と味付けで、実習での疲れを回復させてくれました。
おまけ② 西の尾瀬 鯉ヶ窪湿原
哲西町には、「西の尾瀬」と呼ばれている、国の天然記念物である鯉ヶ窪湿原があります。

今回は時間がなく、入口しか見れませんでしたが、ここにはおよそ300種類を超える植物が自生しているそう。
1時間ほどで1周できるみたいなので、ぜひ今度行ってみたいです!
おまけ③ 哲西町の星空
哲西町の夜は星がよく見えました!

肉眼ではもっと綺麗に見えたので、ぜひ訪れた際は夜空を見上げてみてください。
おわりに
改めてこの度は1週間の実習を受け入れてくださりありがとうございました。
佐藤先生をはじめ、診療所のスタッフの皆様には本当に温かく接していただき、安心して実習を行うことができました。
また、診療所以外の施設で実習を受け入れてくださった皆様、そして哲西町の全ての住民皆様が哲西町に誇りを持っておられるように感じ、実習生の自分を温かく受け入れてくださったことがとても印象的でした。
最後に診療所スタッフの皆様や共に実習を行った研修医・学生からエールを送っていただきましたが、本当に自分のことをよく見てくださっていたことに驚きました。普段自分では意識しない自分の良さを言葉にしてくださり、ありのままの自分を受容してもらえた嬉しさを感じるとともに、ありのままの自分に自信を持つことができました。
とても濃い1週間でしたし、まだまだ学びたいと思える実習でした。
また機会があれば哲西町へ実習、そして遊びに行きたいと思います。
ありがとうございました。